薬剤師とザリガニの奮闘記

~薬ザリ(yakuzari)の備忘録~

京大病院の医療事故(メイロン®誤投与)で思うところ…

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医療事故…

インターネットニュースを何気なく眺めていたところ嫌な言葉を見つけてしまった。

しかも転帰は最悪な結果。

私たち医療人は常にこの医療事故と隣り合わせで仕事をこなしている。

隣りあわせと言うと少し語弊があるかもしれない。

医療事故が起こらないように常に配慮しながら仕事をこなしている」と言った方が良いかも。

起きてしまった医療事故。

当事者はもちろん大きく反省をし、再発防止策を練るだろう。

しかし当事者以外の第三者である私たち医療人はどうだろうか??

他の病院で起きてしまったことを無駄にしないためにも、何が起きたのかを自分の目で見て自施設の状況を再度見直す必要があると強く思う。

そのために今回の医療事故で起きてしまったことを、現在得られる情報でまとめてみようと思う。

医療事故の裏には小さなミスがたくさんある

医療事故とまではならないが、小さなミスというのは現場では多々ある。

患者さんから言わせれば「何言ってるの??」と思うかもしれないが、作業しているのは人間。人間はミスをするものという大前提の元、ミスが起こりえないようなシステムを病院それぞれで考えに考え抜いて対策を講じていると思う。

ミスが起こらないように何重にもチェックシステムをかけて、例え最初の1人がミスをしてしまってもどこかのチェックでアラートがかかれば良い。ざっくり言うとそのような考えで現場は動いている。

京大病院の医療事故の真相

それでは、今回の医療事故で何が起きたのかを得られる情報でまとめてみたいと思う。

実は、先ほどリンクを貼ったYahoo!ニュースからの情報だけでは全く真相は見えてこない。

極端な話し、内服薬なのか注射薬なのかの区別もつかない(内服であれば6倍程度で最悪な結果になることはない。6.7倍となればあの薬剤同士だと粗方目途を付けられる人もいると思うが…)。事の真相を知ると、医療従事者はこのニュースの薄っぺらさに違和感さえ覚えることだろう。

真相はこちらにあるようです。

炭酸水素ナトリウム誤投与による急変死亡について~京都大学医学部附属病院~

なるほど。

やはりいくつもの「偶然」が重なってしまい、このようなことになってしまったことが見て取れる。

今回起きた「偶然」のうち一つでも「偶然起きなければ」転帰が変わっていたかもしれない。

この「偶然」起こってしまう事象の発現率を究極に下げる対策を練るのが医療安全につながっていくと思う。

京大病院の医療事故は「偶然」が幾重にも重なり起きてしまった

「6.7倍の濃度」「炭酸水素ナトリウム」という二つのキーワードが出ればある程度想像できた医療人も多いかと思う。

そう、「メイロン®(8.4%)」と「炭酸水素ナトリウム注射液®(1.26%)」の処方間違え。

成分名(炭酸水素ナトリウム)は同じだけど、濃度が大幅に違う。

この処方間違えを発端にいろいろな「偶然」が重なってしまった。

下記にその「偶然」とされる内容を羅列していこうと思う。

「偶然」検査するまでに時間が無かったから「炭酸水素ナトリウム」を投与することになった

本患者さんは腎不全を患っていて入院していたそう。

造影CT検査では腎臓に負担をかける可能性が高い造影剤を使用する。その造影剤の影響を少しでも和らげるために、通常であれば生食を6時間かけて投与し、それから検査を行う。しかし、今回は検査までに「偶然」時間がなく、敢え無く「炭酸水素ナトリウム」を投与することになった。普段であれば入院病棟で6時間かけて生食を投与するところ、たまたま「炭酸水素ナトリウム」を投与することへ。上記の文中にも出ていたが、造影CT検査前に「炭酸水素ナトリウム」を投与するということに不慣れだった病棟の看護師。外来では6時間も生食の投与に時間をかけられないという理由で、普段から「炭酸水素ナトリウム」を投与される患者さんが多かった。そのため今回の件でもし、外来の看護師が対応していたら気付けたのかもしれない。まずはそのような「偶然」があった。

血管痛が起きるも、経路を変えた(カテーテルを変えた??)ところ「偶然」血管痛が消失した

造影CT前に「炭酸水素ナトリウム」を投与している最中に、血管痛の訴えがあったとのこと。

そりゃそうだ。メイロン®(8.4%)をそのまま投与したらそりゃ血管の1本や2本に痛みが出ることは想像に難くない。しかし、今回はカテーテルを変えたところ血管痛が「偶然」にも消失してしまった。もし消失せずに症状が継続していたら誰かが気付けた可能性も否定できない。

※メイロン®(8.4%)の浸透圧比:6(生食に対する比)
※炭酸水素ナトリウム®注射液(1.26%)の浸透圧比:1(生食に対する比)

「偶然」プラザキサを内服していた患者さんだった

投与中、患者さんから「おかしいので医師を呼んでほしい」と訴えがあるもスルー。その後心電図のアラームが鳴り、トイレで倒れている患者さんを発見。

心停止!

速やかに蘇生のための心臓マッサージ等、一連の救命措置を開始したとのこと。

蘇生中に、口内より大量の血液が流出。おそらく心マによる肺出血。

「偶然」抗凝固薬であるプラザキサ®を内服していた患者。

出血を止めるためにプラザキサの効果を消し去る薬(中和薬)をいち早く使用しなければならない場面。

その場で対応していた医療チームは誰も当患者さんがプラザキサを内服していることを把握しておらず、医療安全管理室が「偶然」気が付いたことでようやく中和薬「プリズバインド静注液」が投与された。

京大病院の医療事故で気になる点

薬剤師であれば誰しもが頭によぎると思うことがある。

「メイロン®(8.4%)250mLx4の処方が出た際に気付けなかったのか??」

「ここでしっかりと疑義をかけていたら…」

薬剤師が不在の時に処方となり薬剤師の目が通っていなかったのかと思ったが、報告書に「薬剤師による処方監査でも気づくことができなかったことから…」との記載があるので、薬剤師の目を通らなかったわけではなかったようだ。ここは個人の能力によるところがあるので、医療安全的にはここを責めるべきではないのは重々に承知しているつもりだが、やはりここで気付けていたら…と考えてしまう。

この調剤が1人で行われたのか、それとも2人で行われたのかは不明。複数人が処方鑑査をしっかり行い、何重にもチェックを繰り返すことでミスを最小限に抑えることが理想だが、今回はどうだったのか。もし複数人のチェックを行っても尚、今回のようなミスにつながるのであれば、やはり組織的に何か問題あるのか?と考えてしまう。

「仮に自分が勤務している病院で同様の処方が出た際にはどうだろう?」と考えると、100%防げる自身は正直ない。
気付く人が大半かと思うが、自分が勤務している病院の薬剤師20数人全員が気付くかと考えると…

これは早急に自施設の体制をチェックする必要がありそう。
…薬剤部長でも何でもないので、下っ端として出来ることをやってみようと思う。

まずは自分自身の医療安全に関する知識を蓄えるとこかな?

そしてもっと根本的な話になるが、

「そもそも腎不全患者の造影CT前に炭酸水素ナトリウム投与は有効か??」

ここをはっきりさせる必要がある。

現在の根拠はおそらく

腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018

である。このガイドラインに「輸液による造影剤腎症の予防法」が記載されている。

生食を検査前後に点滴する:エビデンスレベルⅡ 推奨グレード A
輸液時間が限られた場合には,重曹液の投与を推奨する:エビデンスレベルⅠ 推奨グレード B

詳細は上記PDFファイルの参照をお願いしたいが、推奨グレードはやはり生食の方が高い。どちらでも良い場面でわざわざ重曹液を選ぶ必要はなさそうである。重曹液を使用せずに、生食のみでクリニカルパスを組んでいる病院もあるようだ。

あと気になるところは「プラザキサに中和薬ってあったの??」という声を多数耳にする点。

意外と認知度がまだまだ低いようだ。

参考までに添付文書のリンクを貼っておくので、見たことがない人は一度目を通されることをおススメする。

プリズバインド静注液2.5g添付文書

今回の件について思うところはまだまだあるが、長くなってきたので一旦ここで切ることにする。
新しい記事に書くか、当記事に追記していくかは決めていないが、いずれかの方法でまたまとめたいと思う。

他にもこんなこと書いてます↓↓
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