2019年6月25日に発売されたザバクサ配合点滴静注用についてまとめていきたいと思います。
前半は薬剤そのものについて
後半は発売までのいざこざ(?)について
少しまとめてみました。
ザバクサの概要
基本的な情報と、個別で担当MRさん等から頂いた情報も載せていきたいと思います。
商品名
ザバクサ®配合点滴静注用
成分名
タゾバクタムナトリウム+セフトロザン硫酸塩
(略語:TAZ/CTLZ)
薬価
6335円/本
→類薬がないとして原価計算方式で算定されています。
※類薬としてゾシン®(タゾバクタム・ピペラシリン水和物)がありますが下記の理由で類薬とされませんでした。
類似の効能・効果・薬理作用を有するタゾバクタム/ピペラシリン水和物(ゾシン静注用)は、薬価収載後10年以上(平成20年9月収載)であり、かつ、後発品が収載されていること等から、総合的に類似の効能・効果、薬理作用をもつ新薬算定最類似薬はないと判断した。
※引用 【中医協資料】新医薬品一覧表(平成31年2月26日収載予定)
特徴
国内で注射用としては24年ぶりに登場した新規セフェム系抗菌薬!!
適応菌種
レンサ球菌、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、緑膿菌、シトロバクター属
適応症
膀胱炎、腹膜炎、腹腔内腫瘍、胆嚢炎、肝腫瘍、腎盂腎炎
用法用量
1回1.5gを1日3回60分かけて点滴静注する。
なお、腹膜炎、腹腔内腫瘍、胆嚢炎、肝腫瘍に対してはメトロニダゾールを併用すること
ザバクサの第一印象
なんとなくもらった資料を読んでいる限り、ターゲットの科は泌尿器科・消化器外科でしょうか?でも膀胱炎、腎盂腎炎でも適応を取っているので、他の科でも使用される機会は大いにあり得ると考えられます。
ザバクサの特徴の一つとして薬剤耐性菌に対しての効果を期待されている部分もあるため、類薬のTAZ/PIPCにように闇雲に処方されるような薬剤ではないと思います。
その反面、今までであればカルバペネムを使用するような症例に対して
「カルバペネムの使用を抑えてザバクサを使用→カルバペネムの使用量を軽減→カルバペネムの感受性を残すことに寄与する」
と考える医師・薬剤師の方もいらっしゃると思います。
現時点では薬剤耐性菌に対しての切り札として温存しておくのが正解かと思いますが、世の中的にどのように進んでいくのかをしっかりと見極める必要がありそうです。
ザバクサのポイント
私個人の視点からザバクサのポイントを何点かあげてみたいと思います。
レボフロキサシン、メロペネムとの比較試験について
泌尿器科での使用に関してのデータでは複雑性尿路感染症においてレボフロキサシンに対する非劣勢が、消化器外科での使用に関してのデータでは複雑性腹腔内感染症においてメロペネムに対する非劣勢が検証されています(ただし腹腔内感染症に関してはザバクサ+メトロニダゾールのメロペネムに対する非劣勢)。
用法に腹腔内感染症に対してはメトロニダゾールを併用しなければならないと記載されている点からも想像つきますが、この薬は嫌気性菌には効果がありません!!
緑膿菌に対する感受性株の割合
タゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC):約80%
メロペネム(MEPM):約80%
レボフロキサシン(LVFX):約75%
ザバクサ®:約95%
しかし乱用するとこの数字も大きく変わってくると思いますので、大事に使っていきたいですね。
気になる薬価
やはり気になりますね。
常用量ですと、1.5g(1本)を1日3回になるので、6335x3で19005円/日となります。類薬のゾシン®ではジェネリック医薬品も発売されているため、この価格差をどう捉えるかを悩むことになりそうです。
気になる水分量
どうしても透析患者さんをはじめ、水分負荷をあまりかけられない患者さんを普段から目にしていると気になります。
ザバクサの添付文書には下記のようにCCr(クレアチニンクリアランス)別の推奨投与量が記載されています
CCr30-50→750mgx3
CCr15-29→375mgx3
HD→150mgx3(初回のみ750mg)
どの腎機能であっても、1日3回投与が推奨されています。添付文書上にはそれぞれの用量分を生食100mL or 5%ブドウ糖100mLにて希釈となっているため、300mL/日の水分は入ってしまいます。
更に、腹膜炎、腹腔内膿瘍など嫌気性菌のカバーが必要になるとメトロニダゾールの注射液と併用しなければなりません。
メトロニダゾールの推奨投与量が500mgx3~4ですので、そこでも300-400mL/日の水分が入ってしまいます(メトロニダゾールの注射は500mg/100mLでの販売のみですので、どうしようもない)。
よって、ザバクサとメトロニダゾールの注射だけで水分量として600-700mL/日も水分を負荷してしまうことになります。
果たしてどうしたものか…。
そもそもザバクサの100mLの希釈に根拠はあるのだろうか?
→追加調査が必要そうです。
希釈液量について
担当MRさんから希釈液量に関しての資料を頂きました。
正式に濃くして良いですよ!という返事では当然ありませんでしたが、
忍容性試験(第Ⅰ相)にてザバクサ3gを100mLに溶解・希釈したものを60分間x10日間反復投与、また4.5gを100mLで溶解・希釈したものを60分x単回投与、いずれにおいても忍容性について問題はなかった
とのことです。
つまり、今回既定されたの濃度(1.5gを100mLで溶解・希釈)よりも2倍濃くして10日間投与されても問題なかったようですね。
上記内容を加味して各病院等で対応を決めることになるかと思います。
気になる調製方法
MSDの製品は調製方法に癖があるように感じています(あくまで個人的意見です)。キュビシンやカンサイダスなどなど…
一度覚えれば問題ないのですが、現場の看護師からすると少し癖があるように感じてしまうかもしれません。
ですが、MSDさんもその辺りのケアの準備はしっかりと進めてくれており、下のような資料を頂きました。
一部見づらくなってしまい申し訳ありません。。
おそらくMRさんが配布してくれるかと思いますが、こういった資材もあるよという紹介をさせていただきました。
ザバクサ発売前のいざこざについて
2019年4月1日に発売延期の一報あり
2019年4月5日発売予定とのことで院内でもいろいろと準備を進めていましたが(薬事委員会や電子カルテ上でのマスタ整備など…)、本日MSDの担当MRさんより下記のようなことが記載されている資料を頂きました。
「安定供給を図るため、発売日を延期させて頂くことと致しました」
まさかの発売延期が決まったようです。詳細はMRさんの耳にも入っていないようですが、なんでも海外で供給が不安定になっており(原因不明)、このまま日本で発売しても同様に出荷調整をしなければならない事態になる可能性があるとのことで、発売を見送ったようです。
楽しみにしていた新薬だけあって発売が延期になってしまったのは残念ですが、しっかりと供給体制が整ってから再度発売日決定のアナウンスをいただけたらなと思います。
薬価収載3か月以内に発売できない?
新薬の薬価収載・発売について下記のようなルールがあるのはご存知でしょうか?
医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて
(6) 薬価基準収載品目の供給について
① 新薬収載希望者は、その製造販売する医療用医薬品が薬価基準に収載された場合は、特にやむを得ない正当な理由がある場合を除き、その収載された日から3ヶ月以内に製造販売して、当該医薬品の医療機関等への供給を開始するとともに、継続して供給するものとする。
ザバクサの薬価が収載されたのが2019年2月26日です。ですが、5月22日現在も発売開始の案内は特にありません。「正当な場合がある場合を除き」とあるので、今回の件が「正当な場合」に該当すれば問題ありませんが…発売中止にならないことだけを願います。
願いが届いたのか、5月の最終週に担当のMRさんからある情報を頂きました。
「今回のザバクサの発売延期に関しては、全国的に抗菌薬が不足傾向になっていることなどを理由に「正当な場合」として対応してもらえる方向で国と話し合いが進んでいる」とのこと。是非この方向で話が進んでくれることを切に願います!
ザバクサの発売日が2019年6月25日に決定!
とうとうこの情報が来てくれました!
発売日が2019年6月25日に決定した、と担当MRさんより情報を頂きました!
会社の見立てとしては、発売しても出荷調整等かからずに供給できる見込みがたったためとのことです。
ザバクサへの期待
最終的に、発売は2019年6月25日に決定しました!
当院でも薬事審査委員会で無事に承認されたので、正式採用となりました。
さて、どのような手ごたえとなるか、、楽しみです。