感染症治療における重要な抗菌薬の一つであるタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC、先発品:ゾシン®、後発品:タゾピペ®)ですが、先日(2020年10月)添付文書改訂がありました。
改定内容としては、重篤な副作用に
「低カリウム血症」
が追記となっています。
追記となった経緯や、私自身の経験の有無なども紹介したいと思います。
- TAZ/PIPCの重篤な副作用に低カリウム血症が追記となった経緯
- TAZ/PIPCによる低カリウム血症にて死亡症例はあるのか?
- TAZ/PIPCにて低カリウム血症が起きる理由
- TAZ/PIPCの重篤な副作用に低カリウム血症が追記となった率直な感想
TAZ/PIPCの重篤な副作用に低カリウム血症が追記となった経緯
DSUなどの資料によると、厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長通知が発出された日は2020年10月6日。
重大な副作用の欄に「低カリウム血症」を追記するよう指示がありました。
この指示に則って、10月20日に発出されたDSUには下記のような改定内容がしっかりと記載されています。
ちなみに、先発品のゾシン®に限らず、TAZ/PIPC製剤は全ての後発メーカーも改訂対象となっています。
TAZ/PIPCによる低カリウム血症にて死亡症例はあるのか?
重篤な副作用に追記となったからにはそれなりに理由があるかと思いますが、少なくても直近3年度の国内症例の集積状況からは死亡例は確認されていません。
タゾバクタム・ピペラシリン水和物の「使用上の注意」の改訂について
TAZ/PIPCにて低カリウム血症が起きる理由
TAZ/PIPCによる低カリウム血症が起きる理由ですが、実はTAZ/PIPCに特有なものではありません。
ペニシリン系抗菌薬で起こるとされており、そのメカニズムは下記のように言われています。
皮質集合管関空内で非吸収性の陰イオンとして働き、管腔内負電位を増加させることによってK(カリウム)の分泌を促進し低カリウム血症を引き起こす。
引用元:日腎会誌 2008;50(2):84-90
TAZ/PIPCの重篤な副作用に低カリウム血症が追記となった率直な感想
その他の副作用に「低カリウム血症」が記載されていたことは重々承知していたのですが、個人的には大きな問題になった症例を経験したことはありません。
ですが、私が勤務している病院では腎不全患者さん(血液透析を含む)が多く、どちらかというと「高カリウム血症」が問題になることが多いという背景は考慮した方が良いのかもしれません。
高カリウム血症をどうにかしたいと考えていた患者Aさん。
そんなAさんに対して、感染症治療としてTAZ/PIPC開始したところカリウム値が低下。
その後のカリウム値のコントロールも良好で、大きな問題なく感染症治療も終了→退院。
本当はTAZ/PIPCの副作用としてカリウムが低下しているけど「おっ?なぜかカリウムが低下してきた。結果オーライ!」といった形で気にしていなかっただけの可能性は多大にあります。
もしかしたら今後Aさんのような患者さんを臨床で見かけた際にはTAZ/PIPCによってカリウムが低下した、ということが考えられるようになるかもしれません。
カリウムのコントロール不良は最悪な転帰に直結する可能性が高いです。
例え死亡例が無いにせよ、普段の臨床で気を付けなければならない項目であることに違いはありませんので、今後気を付けて見ていきたいと思います。
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