新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するファビピラビル(商品名:アビガン)の見解が一つ出ました。
その見解は私達日本人にとっては少し残念なものだったように思えますが、その結果を鵜呑みにするのは少し違うかなという話をしたいと思います。
「アビガン特定臨床研究の最終報告」の内容について
それでは少し残念だったように見える結果ですが、藤田医科大学のホームページで公開されています。
詳細のデータは今後論文発表されることかと思いますが、私なりの解釈も含めて見てみたいと思います。
アビガン特定臨床研究の対象患者
まずは本研究の参加人数ですが、登録数は88名。
この登録者を通常投与群(初日からアビガン内服)44名、遅延投与群(6日目から内服)44名に分けて評価されています。
ウイルス量に関する評価は69名で通常投与群36名、遅延投与群33名に分けて評価されています。
アビガン特定臨床研究の評価項目
それでは上記登録者で評価された内容を見てみたいと思います。
主要評価項目
この研究の主要評価項目は「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」となっています。
この項目の結果は下記のように公表されています。
通常投与群で66.7%、遅延投与群で56.1%、調整後ハザード比は1.42(95%信頼区間=0.76-2.62、P値=0.269)
引用元:ファビピラビル(アビガン)特定臨床研究の最終報告について
副次評価項目
この研究の副次評価項目は「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」となっています。
この項目の結果は下記のように公表されています。
通常投与群で94.4%、遅延投与群で78.8%、調整後オッズ比は4.75(95%信頼区間=0.88-25.76、P値=0.071)
引用元:ファビピラビル(アビガン)特定臨床研究の最終報告について
探索的評価項目
この研究の探索的評価項目は「37.5℃未満への解熱までの平均時間」です。
結果は下記。
通常投与群で2.1日、遅延投与群で3.2日、調整後ハザード比は1.88(95%信頼区間=0.81-4.35、P値=0.141)
引用元:ファビピラビル(アビガン)特定臨床研究の最終報告について
有害事象に関して
血中尿酸値の上昇が84.1%、血中トリグリセリド値の上昇が11.0%、肝ALTの上昇が8.5%、肝ASTの上昇(いずれも検査値異常)が4.9%
アビガン特定臨床研究の結論
以上の結果を踏まえて、藤田医科大学は下記のように書いています。
通常投与群では遅延投与群に比べ6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたものの、統計的有意差には達しませんでした。有害事象については、検査値異常としての尿酸値上昇がファビピラビル投与中の患者の大半に見られましたが、投与終了後には平常値まで回復し、その他重篤な有害事象等は見られませんでした。
アビガン特定臨床研究の最終報告を読んだ私なりの感想
ここからは私個人の感想を述べてみたいと思います。
まずは、予想よりも参加人数が少なかったように感じました。
緊急事態宣言等でCOVID-19の拡大を防止できた結果の裏付けにもなるかもしれませんが、個人的な勝手な感覚だともっと人数が集まっているのかなと想像していました。
この人数で統計上有意差をつけるのはなかなか難しいよな、というのが率直な感想です。
もし、今後さらにデータが蓄積されることがあるのであれば少し結果は変わってくる可能性もあるかなと考えられます。
そして次に思うことは、元々有意差が付きにくい評価項目でないかということです。
今回の研究は簡単に言うと「アビガンを内服した人と内服していない人でウイルスの消失率や解熱までの期間に差があるか」となりますが、そもそもアビガンを内服していない人でもそれなりにウイルスが消失し、比較的早期に解熱しています。
COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 4 版(日本感染症学会) では下記のように記載されています。
1. 概ね60歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい。
2. 概ね60歳以上の患者では重篤な呼吸不全を起こす可能性が高く、死亡率も高いため、低酸素血症・酸素投与などの状況を考慮し抗ウイルス薬の投与を検討する。
3. 糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患・悪性腫瘍、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等のある患者においても上記2に準じる。
4. 年齢にかかわらず、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある例では抗ウイルス薬の投与を検討する。
5. PCRなどによりCOVID-19 の確定診断がついていない患者は抗ウイルス薬の適応とはならない。
つまり、何もしなくても軽快する症例が多く存在するということは大前提とされています。
そういった大前提の中で特定の薬の効果を見出すのはそれ相応のデータが必要になりますが、それでもアビガンを内服するとウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向があるということは今回示されています。
今回はただ「統計学上有意差が認められなかった」だけとも言えます。
このジレンマをはっきりさせない中で「アビガンは有効ではない」という情報が独り歩きしてしまうのは少し違うのかな~
と私は考えています。
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