今回はちょっとマニアックですが、関わっている人にとってはすごく大事なこと
「アンチバイオグラム」の見方を紹介したいと思います。
「アンチバイオグラム=医師やICT・ASTに参加している薬剤師だけが使うもの」
ではありません!!
診療に携わる医師はもちろんですが、病棟業務を行っている薬剤師も理解必須かと思いますので、今一度アンチバイオグラムの見方を復習しておきましょう。
そもそもアンチバイオグラムって何?
「アンチバイオグラムって何ですか?」
と聞かれれば、
「細菌毎に抗菌薬がどの程度効くか(感受性か)、効かないか(耐性か)の割合を一覧表にしたものです。」
と答えます。
しかし、アンチバイオグラムに全く触れたことが無い人からしたら「??」ですよね?
実際の一覧表を見た方が早いかと思いますので、私が務めている病院のアンチバイオグラムをちょっとお見せします(%は伏せさせていただきます)。
当院ではこのような一覧表を細菌検査室の方が作成してくれます。
アンチバイオグラムの見方
「一覧表が存在することは分かった!!でも、見方が分からない…」
という方もいらっしゃるかと思いますので、要点のみお伝えします。
当院のアンチバイオグラムを見てみると、左に細菌名が羅列されており、その横に抗菌薬が羅列されています。
試しに上から2番目の細菌「MSSA」を見てもらうと、「MSSA」に対する抗菌薬として横に薬品名が列挙されています。
その中のCEZ(セファゾリン)というものがあります。表では空欄としていますが、実際は「100%」と書かれています。
つまり、去年1年間で当院で検出された「MSSA」という菌に対して、CEZという抗菌薬は全て感受性あり(効果発揮)と判断されています、と読み取れます。仮に80%であれば、10検体中8検体は感受性だったけど、2検体は耐性or非感受性と判断されましたよ、と読み取れます。
アンチバイオグラムの実際の使い方
なんとなく見方は分かったような気がするけど、どういった時に使えば良いの??と思う方が多いかと思いますので、感染症診療の流れを追いながらどういった場面で使えるのかを考えてみましょう。
診察
発熱・排尿時痛・倦怠感等の訴えで受診された患者さんがいたとします。
まずは窓口でアレルギー歴や体温などの簡単な聞き取りが行われます。
それらの情報を医師が確認し、ある程度〇〇という病気かもしれないと疑って実際に患者さんを診察します。
※診察内容は問診・触診等いろいろあると思いますが、今回は省略させていただきます。
適切な検査
上記の診察をしたうえで、
「もしかしたら尿路感染症かもしれない。」
と医師が考えたとします。
すると、尿路感染症を証明するために採血や検尿、尿培養提出のオーダーを出します。
抗菌薬の選択
施設の環境に応じて変わってきますが、当院では採血結果は即日出ますので、その日のうちに結果を確認することが出来ます。
培養結果が出るのには数日かかることが多いため、当日把握できるのはグラム染色の結果ぐらいです。
仮に採血結果も尿路感染症に矛盾しない結果で、グラム染色からもグラム陰性桿菌の存在を確認できたとします。
すると、医師は尿路感染症に対する抗菌薬を選択しようとします。
ここです!!
アンチバイオグラムはこのタイミングで使用します!!
尿路感染症+グラム染色にてグラム陰性桿菌の存在が確認できた
→この時点で医師の頭の中ではある程度菌が想定されます。
そこで、当院でその想定されている菌に対してどの抗菌薬が効果があるかな?というのを確認するためにアンチバイオグラムを活用します!!
細かい話は省きますが、尿路感染+グラム陰性桿菌であれば大腸菌が想定されます。
では、その大腸菌に対してどの抗菌薬が効果を発揮しやすいかということをアンチバイオグラムで確認します。
先ほどお示ししたアンチバイオグラムを確認すると、黄色いマスの薬剤が3種類あることが見て取れます(黄色は感受性率が50-80%であるため、積極的に使用する薬剤にはならない)。ですので、この黄色い3種類の薬剤は避けて、青色の抗菌薬を選びます。
※青色の抗菌薬の中から選ぶことになりますが、その際のポイントは下記となります。
①標的臓器にしっかり移行する抗菌薬を選択する
→その菌に対して抗菌薬が効くとしても、その抗菌薬がその菌が存在する臓器に行くことが出来なれば全く意味がありません。移行性をしっかりと考慮する必要があります。
②なるべく耐性菌が出現しないとされる薬剤を選択する
→守備範囲が広い抗菌薬(どんな菌でもある程度効果を発揮する抗菌薬:広域抗菌薬)をやたらむやみに使用すると、菌の耐性化が起こりやすくなると言われています。目の前の症例の状況によってですが、可能であれば耐性化を考慮した薬剤の選択が推奨されます。
検査結果に応じた抗菌薬の再評価
感染症診療は抗菌薬を投与しただけでは終わりません!!
その後の経過をしっかりと確認することが大事です。
患者さんは元気になっているのか?
発熱はどうなったのか?
採血結果は良くなっているのか?
排尿時痛は良くなっているのか?
いろいろな確認手段があるかと思いますが、診療においてはとても大事な過程です。
ここで培養結果を大事なポイントとしてあげたいと思います。
さきほど、尿路感染症では大腸菌が疑われることが多いと書きましたが、あくまでそれは統計的な話であって、目の前の患者さんが大腸菌由来の尿路感染症かどうかは実際の培養結果を確認しないと分かりません!!
実際に確認してみると、思いがけない菌であることもまれにあります。
培養にて相手にする菌がはっきりしたら、その菌に対して有効な抗菌薬に切り替えるのが一般的です。
ここです!!
ここでもアンチバイオグラムを使用することがあります。
培養結果が出た日に薬剤感受性試験が出ないこともしばしばあります(このへんのタイムラグについてはイマイチ分かりませんが、事実感受性結果が遅れて報告されてくることが多いです)。感受性試験の結果を待ってられない状況であれば、実際に培養された菌に対して感受性率が高い抗菌薬を選ぶのが一般的です(もちろん薬剤の移行性も考慮して)。
これらの過程を繰り返して、患者さんを良くするというのが感染症診療となります。
アンチバイオグラムを活用する上での注意点
上記のような場面でアンチバイオグラムを使用するわけですが、注意点が何点かあります。
薬剤の移行性について
その菌に対して効果が強い(感受性の)抗菌薬であっても、その抗菌薬が標的臓器に移行しなければ全く意味をなさない。アンチバイオグラムの感受性は、あくまで試験管内での結果であることを常に頭に入れておかなければならない。
地域性・患者層などで感受性は変化する
「この菌に対してこの抗菌薬は一般的に効果がある」
上記のように記載されている参考書や読み物を良く目にしますが、それはあくまで一般的な話であって自分の施設に当てはまるかどうかは分かりません。地域差、患者層による差などがあるため一般論はあくまで一般論として捉え、普段から自施設のアンチバイオグラムを気にしておくことが大事だと思います。
※施設・地域によってはアンチバイオグラムを公開していることがありますが、それらはあくまでその施設・地域であるから活用できるものであって、全く違う地域等では使用できないため注意が必要です。
アンチバイオグラムの活用方法~まとめ~
今回アンチバイオグラムの活用方法・活用タイミングについて紹介させていただきましたが、この記事を書こうと思ったきっかけは「セファゾリン供給停止問題」に巻き込まれたことです。
ガイドラインで代替薬を探す、近い世代のセフェム系を選ぶと考えている施設が多いようですが、術後の感染予防と考えたとき本当にそれだけで良いでしょうか?
もちろんガイドラインを参考にすることは間違いではないと思いますが、重ねて自施設・地域のアンチバイオグラムも一度見直して本当にその薬剤で良いかを確認する必要があるのではないかと考えて本記事を書いてみました。
セファゾリン供給停止問題に頭を悩ませている同業者が多々いらっしゃるかと思いますが、そういった方々の何かの参考になれば幸いです。
さらにさらに、2019年9月現在ではTAZ/PIPC(タゾピペ)でも騒動が起きることが目に見えています(既に騒動が起きている施設もあるかと思います)。
狭域・広域に限らず抗菌薬の入手が難しくなっていく日本。
この問題は感染症を主に頑張っている薬剤師・医師だけでは対応できない部分も多々出てくると思います。
今一度基本に帰って、当記事でアンチバイオグラムの見方を復習してもらえたら幸いです。
抗菌薬の記事もあります↓
www.yakuzari.work
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